2008.08.23
『トルコ狂乱』から再び、トルコ本ネタです(ビミョーに古い情報でスミマセンッ)。
今年の5月30日に藤原書店の学芸季刊誌『環(かん)』の別冊として『トルコとは何か(3200円+税)』が出ました(写真)。
藤原書店と言えば、トルコ初のノーベル賞作家であるオルハン・パムクの著書を出している出版社。この別冊も、後半は〈オルハン・パムクの世界〉〈パムクおよびその作品と、トルコを考えるうえで必読の文芸論〉といった企画が立っていて、多少パムク・プロモーションの意図が感じられるものの、寄稿者の顔ぶれも多彩で読み応えのある一冊でした。※約1/3はパムク関連
つい最近になって「やっぱり読んでおこう」と思って購入したのですが(最初は3200円という値段に腰が引けて手が出なかった)、冒頭の座談会(澁澤幸子[作家]+永田雄三[明治大学教授/オスマン帝国史]+三木亘[慶応義塾大学特選塾員/中東歴史生態学])をはじめ、一橋大学大学院教授・内藤正典氏の『トルコ共和国の根幹』、立教大学教授・設楽國廣氏の『イスラムとトルコ』、漫画家・横田吉昭氏の『トルコ漫画小史』、東洋大学准教授・三沢伸生氏の『日本・トルコ関係小史』などなど、本誌は既に知っている……と思っていたことを改めて見直したり、イメージや考えを修正する機会を与えてくれました。
そんななか印象に残っている部分を少しだけ紹介します。
まず、座談会にも登場した三木氏の寄稿から。
「18世紀ー19世紀、決定的には19世紀に、近代ヨーロッパなる非常に暴力的なものが西北ヨーロッパから登場して、インド・ヨーロッパ語族だとか、黒と白と黄色の人種論だとかいう観念的なイデオロギーを発明して、自分たちは白で一番上等なインド・ヨーロッパ語族の大将なんだという奇妙な理論を展開した。
19世紀以降のマイノリティなるものは、そのインド・ヨーロッパ語族なる言語理論が作り出したんだと思います。」
インド・ヨーロッパ語族というと???だけど、つまりは帝国主義だと言い換えることができるでしょう。帝国主義を旗印として他の民族・国家を侵略する際に、マイノリティという思想を上手に利用した。クルド人の問題はまさにこれだ、と一刀両断に語ることはできませんが、多分にその要素を含んでいるだろうし、いまなおそれは続いていると感じます。
もうひとつ気になったのは内藤先生の寄稿『トルコ共和国の根幹』です。
「一体不可分の国民国家」「民主国家」そして「世俗国家」がトルコの基本原則だと述べたうえで、昨年の総選挙からギュル大統領選出、世俗主義政党の敗北と民族主義の高揚、軍の役割、大学生のスカーフ解禁、北イラクへの越境攻撃、そして現与党(AKP=公正発展党)への解散請求訴訟まで、直近の出来事を挙げながら現在進行形のトルコを論じていますが、一番印象深かったのはトルコ軍に関する記述でした。
「トルコ軍というと、欧米ではトルコ民主化の障害であるかのように言われることが多い。」
「外から見ていると、(トルコ)軍が相変わらず力をもって政治に介入しているように見える。トルコの場合、政治そのものは民主化が進んでいるから軍の干渉と映るのは当然である。だが、視点を変えてみると、軍が持っている別の側面が見えてくる。(中略)
軍部は、“トルコ国軍が共和国憲法にのみ拘束されている”ことを明言する。もちろん、議会が派兵を決定すれば軍も従わざるを得ないのだが、それ以前に派兵が憲法上疑義があることを繰り返し主張する。だから文民統制が未成熟だと言われるのだが、結果としてトルコは2回の戦争とも派兵しなかった。トルコ軍の“武力行使を国家と国民の安全と一体性を守ること以外に認めない”という憲法上の規定に従ったからである。つまり、トルコの場合、“最強の護憲勢力が軍”だと言うことができる。」※文中の“ ”はわたしが付けました。
1960年と1980年の2度のクーデタ、1997年には福祉党主導の連立政権を崩壊に追い込んだ……など、文字面だけを追い、西欧的な視点だけで見てしまうと、トルコ軍というのがまさしく民主化の障害のように思えたりするのですが、その実体は違うように思います。
もちろん、97年のように強権発動はもうできませんし、やれば国際世論からのトルコ軍バッシングは避けられません。それでも軍は常に警告を、世俗主義の守護者としてのメッセージを発信し続けています。こうした動きも結局はバランスの問題で、やりすぎてはダメなのだけど、トルコ軍の存在というのは、日本のそれや、諸外国のものとは一線を画すものとして見る必要があると感じました。 ※写真はトルコ軍の公式ウェブサイト(ビュユクアヌト参謀総長がすごい笑顔だ……こうして笑っていると長い顔もなかなかカワイイ♪ ちなみに彼はフェネルバフチェ・サポです)
すでに述べたように、トルコでは世俗主義原則に反したとしてAKPに対する解散請求訴訟が起こされ、全世界の注目を集めました。国民によって選ばれた与党に対する解散請求です。New York Timesのコラムニストだったかは、これを「トルコは、イスラムの実験室である」というタイトルで論じていて、その論調は「もし解散させられるようなことがあれば民主国家ではないと言わざるを得ない」と匂わせるものでした。
結局、7月末の憲法裁判所の判決は「違憲」でしたが、解散ではなく罰金刑が課されました(政党助成金半分カット)。
この先、トルコがどのように変化していくのか。どんな解決策を見つけ出し、どこに着地するのか。まだまだ目が離せませんが、内藤先生の寄稿で、前よりは少しだけトルコ軍を理解できた気がするし、これからは軍部が出すメッセージ、スタンスなどにも注目しながら見守りたいと思います。
近日日本に里帰りするので、この本読んでみます。お値段が痛いですが・・。
ReplyDeleteトルコって住めば住むほど、矛盾してる思います。民主国家といいながら、大学でのスカーフ禁止、でもテレビなどで政府(AKP)を批判すると、罰金が課せられたり。(同じような理由でトルコでYOUTUBE見れないし)
どっちもどっちと言えばそれまでですが、根が深すぎます。
それから、アンカラ暑いですよ。っていうかトルコ全体が燃えてるって感じでしょうか(笑)それでも アンカラは日が沈めば涼しいので、クーラーは要らないです。
今度、トルコに来られる時は連絡下さい。楽しみに待ってます。
asureさん
ReplyDeleteこんにちは!
日本に里帰りされるとのこと、ぜひこの本を手に入れて読んでみてください(Amazon とかこまめにチェックするとときどき中古が安く出たりするんですけどね)。
トルコでは本当によくYouTubeに視聴制限がかかりますね。別にいいじゃん、と思うけど国民のほとんどがイスラム教徒の国で世俗主義を守りつづけるというのは、すごくたいへんなことなんだな、と最近思うようになりました。
ではでは〜♪
アンカラから帰って来ると、きっと日本が暑い!と思われるでしょう。気温変化(というか、湿度変化)に対抗できるうようご自愛ください。
PS. アンカラに行く時は必ず連絡します。